【プラムの国】パスポートなしで行ける異国(群馬)
「海外旅行で人生観変わるような馬鹿は、渋谷に行っても人生観変わっちゃうコンニャク野郎だよ」 これは、10年くらい前だったか、有吉さんが言っていた言葉である。 当時小生は大学生であり、Twitterで流れてきたこの言葉をお気に入りに追加したことと、自分の中で言葉にできていない気持ちの一部を表現する言葉だと思ったことは確かに覚えている。 心の中に自分でも中身が分かっていない井戸のようなものがあったとして、そこからすくい上げるバケツのとある一杯は、この言葉が代弁するような気がした。そんな気持であった。
きっと次にすくったバケツの中身は「納豆食え!」by 加藤鷹氏である。 小生は後数か月で、30歳になる。
まさか自分が30になるなんてことを10年前の小生は、想像もつかなかったのであるが、なってしまう。事実である。
3点ある。 30も目前になると会社でも中堅社員的な扱い受けるようになり、また沢山手汗も掻いたので、何となく社会が分かった気になってしまっているような気がする。
分からない問題は飛ばして、試験合格ラインをセーブする戦術のように。 今、小生は綴ろうと思う。
井戸の中身を整理するために。ヤバイ一言ですむことをやや長文でやろうと。 何故、初っ端の記事が珍スポットなのか。
それは小生にも分からない。 何故なら、井戸の中身が分からないからである。 プラムの国は、群馬県は月夜野インター近辺にある、その名の通り、プラム狩りや特製のプラムジュースが楽しめるアミューズメントパークである。
また、恐怖の洞窟・バラエティ広場・ウサギと遊ぼうコーナーなど至れり尽くせりのアトラクションが配備された統合テーマパークの側面も持っている。 映画サークルの夏合宿の下見のため、2012年、大学3回生だった小生は、群馬県は関越自動車道月夜野インターを降り、風光明媚な上毛高原の景色に包まれていた。
免許取り立ての仲間と軽自動車に四人乗り、BGMは当時世間を席巻していたAKBであり、それはまさしく、真夏のSoundsGoodであり、ヘビーローテーションであった。免許取得タイミングの僅かな差がマウントの取り合いに繋がる車内において、決死ともいえる合流・車線変更が必須の首都高の喧騒から離れたここ(月夜野)は、ユートピアのようであった。
八月の割には、カラッとした高原の空気が車内を満たす。無事、目的地にはつかないまでも大陸まではたどり着いた僕らは、車窓風景に心を許しながら、各々それなりにセンチな気持ち(当時はチルなんて言葉はなかったぞ)浸っていたと思う。 新緑の道路を抜けていると
目を疑った。感覚が電気信号となり脳に伝わるのであれば、途中でハッキングされて信号を変調されたようであった。 口語自由律の代表歌人、前田夕暮の初めて飛行機に乗った時の感慨を詠んだ「自然がずんずん体のなかを通過するーー山、山、山」を借りるのであれば、「ー-山、山、恐怖洞窟」である。なんなんだそりゃ。 決断をするのに右折700mの距離は充分であった。 僕らは寄り道する。 看板の指す施設が近づいてくるに、畑の先に当該の文字が見えてくる。
ワイヤー製の柵という芳烈さ酔いながら、「窟」って漢字「窟」感あっていいなあとか思う冷静な自分もいたが、木の根元に何やらsome生物が見えた?(「怖」と「の」の間くらい)こともあり、人生で味わったことのない興奮のるつぼに小生は吸い込まれていった。 車を(駐車場らしいところに)停めて、一つ看板が見える。
「恐怖の洞窟」
「うさぎと遊ぼう」 カレードリアとホワイトチョコケーキみたいな組み合わせ!お腹壊しそう!
「自転車おもしろ周回コース」 でも、ここ駐車場で合っていたんだという安心感もあった。
まずは、MAPを見よというのが、数々のRPGで学んだ知識なのである。
整理する。 エントランスでご主人がご対応してくださり、施設の概要をご説明いただく。ご主人の後ろにはプラムジュース200円の張り紙がある。文字のフォントがWordArtでノスタルジックなオレンジの波を打っていた。小生の心もメランコリックにウェーブしている。 エントランスでは、可愛いウサギさんたちが入場者の旅の疲れを癒し、この先への門番のようでもあった。
歩を進めるとロバさんがお待ちかねです。
キクタロウである。 少し手荒な歓迎を受ける可能性もあるようなので、十分に注意が必要である。
ここに差し掛かる前にワイヤー越しに見えた面影は、キクタロウのようである。
ちなみに写真の彼は、十分な注意を払わなかったため、噛まれていた。
南米のサッカー選手みたいな痛がりかたをしていたので、多分大丈夫である。 少し違う方向に目を向けると、コーギーと目が合う。
えーと冷静に考えるとテーマパークとか動物園で、犬がいるっていう状況が新鮮であり、思考が衝撃を受けたのだけども、可愛い。 まずは、バラエティ広場を目指す。 エジプト遠征でナポレオンが「ピラミッドの上から4000年の歴史が諸君らを見下ろしている。」と兵士を鼓舞したのであれば、小生はバラエティ広場を最初に見たときになんと例えただろうか。
緑の中に広がるカラフルな造形。製作者は先ほどエントランスで我々を迎えてくださったご主人である。ご主人の思考の中に飛び込んだ気がした。人の創造力の際限のなさを感じたのである。
裂くのは縁起悪そうな布を真っ二つにした暖簾は、ドクロを纏いここが危険地帯であることを示している。恐怖の入り口のフォントは、血が滴るようなフォントであり、個人的には、「怖」のりっしんべんの真ん中の棒ついて、筆が接地するその最初の瞬間にすべてを込めたような感じが好きである。
暖簾をくぐると最初に目に入るのは、昭和の工業地帯にある居酒屋のような慈悲深いネオンに包まれた洞窟大明神である。ここで入場者は旅の無事を祈願することになる。では、さようなら!
幾多の獣の吐息が混ざったような洞窟の中を進むと鏡の間がある。今までついた嘘(部活欠席の理由など)を見透かされるような気がした。つまり、ここまで外向的だった思考が自分自身に内向的な方向へ矢印が変わるのである。一歩進むごとに思い出が零れていく気持ちがした。仕事から帰った父親の革靴の臭い、父親のあぐらの上に座る安心感、母親が作っていたカスピ海ヨーグルト、シールだらけになってしまった冷蔵庫、祖父の部分入れ歯と朝日、祖母の小缶のアサヒビール・・・
ここに住んでいるのか、ここで生まれ育ったのか、どこか遠いところから越してきたのか、縛り付けらえているのか。そんなことわかる人間なんかいるわけない。洞窟を前進する。
ご主人の遊び心であろうか。マジで一瞬ビビった
脊髄反射的なうっ!が出た。
前置詞でいうとonで表現される設置の仕方をしている、しっかりとした男性の仮面である。
照明の角度の妙が絶妙である。後ろに延びる影は、人間の不安を濃縮させたようでもある。
どんな一コマだよ!
右手の演出が素晴らしい老師?。我々の背後に従順な部下がいて、秘密のメッセージを取り交わしているようでもあるし、哲学的な示唆をしているのかもしれない。
頼むから蛙にだけは変えないでほしい。そう切に願うしか我々にはないのである。 もうどれだけ来たのであろうか。
振り返ると我々の来た道は、一本道だったと理解する。(というか暗くて分からない)
そんなときに目の前に一筋の光が見える。
トンネルを外界に向けて身を屈めながら進む。足元には有象無象の魑魅魍魎の類が蠢いているようでもあった。小生はそれらに食べられないように一歩一歩を確実に踏みしめながら光を目指した。光と闇の境界線をスニーカーが超えたとき、心の底から空気を吸いこむ。生きていてよかった。そんな時を探していた。 「海外旅行で人生観変わるような馬鹿は、渋谷に行っても人生観変わっちゃうコンニャク野郎だよ」というのであれば、小生は、プラムの国に行って、人生観が変わってしまった。製作者の脳内に迷い込んでしまったような空間。検索やガイドブックには載っていない面白さ。きっと、人生を豊かにするようなト書きがここには詰まっている。 てか、プラムのプラムに行ってないじゃん。 P.S.
レガシー感あふれる公式サイトもとても香ばしいので是非ご覧いただきたいです。プロローグ
パスポートいらずの異国、プラムの国
綺麗な二度見をする看板。脳ハッキングされた?
どうやらテーマパークらしい
いよいよ入場
バラエティ広場へようこそ
恐怖の洞窟へ
プラムの国に行った以後と以前で価値観の変わる場所